はじめに
事業承継は、中小企業経営者にとって最重要課題の一つです。自身の事業を誰に、どのように引き継ぐかを検討することは、会社の存続や発展にとって極めて重要な意味を持っています。事業承継には、「人」「資産」「知的資産」の3つの要素があり、それぞれの対策が必要不可欠です。また、事業承継の方法として「親族内承継」「社内承継」「M&A」の3つの選択肢がありますが、自社の事情に合わせて最適な方法を選ぶ必要があります。本記事では、事業承継の重要性と具体的な対策について、さまざまな角度から解説していきます。
事業承継の目的と重要性
事業承継は、創業者やオーナー経営者が築き上げてきた企業や事業を次世代に確実に引き継ぐために実施されます。事業承継を適切に行わないと、企業の存続が危ぶまれたり、従業員の雇用が失われたりするリスクがあります。そのため、事業承継は経営者の最重要課題の一つと言えるでしょう。
企業の継続と発展
事業承継を円滑に行うことで、企業は長期的な視点から継続的な発展を遂げることができます。創業者やオーナー経営者の経営理念や経営ノウハウ、ブランド力などを次世代に引き継ぐことで、企業の強みを維持しながら新しい価値を生み出すことが可能となります。
また、事業承継を通じて事業の再構築や新規事業展開などを図ることもできます。後継者の新しいアイデアや発想を取り入れることで、企業は変革を遂げ、新たな成長の機会を得ることができるのです。
従業員の雇用維持
事業承継が滞ると、企業の存続そのものが危うくなります。その結果、従業員の雇用が失われるリスクが高まります。しかし、適切な事業承継により企業が継続することで、従業員の雇用を維持することができます。
従業員は企業の重要な財産です。優秀な人材の流出を防ぎ、従業員の技術やノウハウを次世代に引き継ぐためにも、事業承継は不可欠な取り組みなのです。
地域経済への影響
中小企業は地域経済を支える重要な存在です。事業承継が適切に行われないと、その企業が倒産するリスクが高まり、地域経済に大きな影響を及ぼします。また、雇用の減少に伴い、地域コミュニティの活力が低下する恐れもあります。
そのため、中小企業の事業承継を円滑に進めることは、地域経済の維持・発展にも大きく寄与するのです。行政や専門家による事業承継支援は、その理由からも重要な意義を持っています。
事業承継の3つの要素
事業承継には「人の承継」「資産の承継」「知的資産の承継」の3つの要素があり、それぞれ異なる対策が必要とされます。これらの要素を適切に引き継がないと、事業承継は成功しません。そこで、3つの要素について詳しく見ていきましょう。
人の承継
「人の承継」とは、経営者や従業員など、事業を支える人材を次世代に確実に引き継ぐことを指します。経営者の承継には、後継者の選定と育成が不可欠です。早期から後継者候補を見つけ、経営ノウハウを伝授することが重要となります。
従業員に関しては、優秀な人材の定着と技術・ノウハウの継承が課題となります。人事制度の整備や研修制度の充実、従業員のモチベーション向上策などを講じる必要があります。
資産の承継
「資産の承継」とは、自社株式や事業用資産など、事業を営むために必要な資産を次世代に引き継ぐことを指します。事業用資産には、土地や建物、機械設備、商標権などが含まれます。
資産の承継には、相続税や贈与税の問題が伴います。事業承継税制の適切な活用や、節税対策が不可欠となります。また、遺留分の問題にも留意する必要があります。
知的資産の承継
「知的資産の承継」とは、企業が長年培ってきたノウハウや顧客基盤、ブランド力など、目に見えない無形の資産を次世代に引き継ぐことを指します。知的資産は企業の競争力の源泉であり、事業承継の成否を大きく左右します。
知的資産の承継には、ナレッジマネジメントの導入や、OJTを通じた技術・ノウハウの伝承、顧客関係の円滑な移行など、様々な施策が必要となります。経営者と後継者は、長期的な視点に立って取り組む必要があります。
事業承継の3つの方法
事業承継の方法には、「親族内承継」「社内承継」「M&A」の3つの類型があります。どの方法を選択するかは、自社の事情に合わせて総合的に判断する必要があります。それぞれの方法のメリット・デメリット、留意点について見ていきましょう。
親族内承継
親族内承継とは、経営者の親族に事業を承継させる方法です。企業の経営理念や文化を引き継ぎやすく、親族への信頼感が高いというメリットがあります。一方で、後継者の資質が十分でない場合のリスクや、相続問題が発生する可能性があるというデメリットもあります。
親族内承継を選択する場合は、早期から後継者の育成に着手するとともに、相続対策や税務対策を十分に検討する必要があります。事業承継税制の適切な活用が不可欠となるでしょう。
社内承継
社内承継とは、優秀な従業員を後継者に選び、事業を承継させる方法です。従業員なので事業内容をよく理解しており、従業員の雇用維持にもつながるというメリットがあります。一方で、株式の取得資金が必要となる点や、信頼関係の構築に時間がかかる点がデメリットとして挙げられます。
社内承継を選択する場合は、後継者の選定と育成プログラムの策定が肝心です。株式取得のための資金確保策や、経営権の移譲プロセスについても検討が必要となります。
M&A
M&Aとは、企業を買収する方法です。経営資源の継承が容易で、迅速な事業承継が可能というメリットがあります。一方で、企業文化の相違から経営統合に難航するリスクや、買収資金の調達が課題となるというデメリットもあります。
M&Aを選択する場合は、買収先企業の選定が重要になります。事前のデューデリジェンスを十分に行い、経営統合のシナリオを検討する必要があります。また、買収資金の確保策についても慎重に検討しなければなりません。
事業承継に活用できる主な制度
事業承継を円滑に進めるためには、各種の制度を上手に活用することが重要です。特に、事業承継税制は中小企業経営者にとって大きなメリットがある制度です。その他にも、相続税の特例措置や助成金制度など、様々な制度が用意されています。
事業承継税制
事業承継税制は、中小企業の事業承継を支援する重要な制度です。後継者が自社株式を取得した際の贈与税や相続税が全額または一部が非課税・納税猶予される特例措置が設けられています。2018年の税制改正で大幅に拡充され、より多くの企業が恩恵を受けられるようになりました。
事業承継税制を受けるには一定の要件があり、都道府県知事の認定を受ける必要があります。また、特例承継計画の提出や従業員要件の維持なども求められます。専門家に相談しながら、適切に活用することが重要です。
相続税の特例措置
相続税の特例措置には、「特定事業用宅地等の特例」や「小規模宅地等の特例」などがあります。一定の要件を満たせば、事業用の資産に係る相続税の課税価格を減額することができます。
また、個人版事業承継税制も創設されました。事業承継円滑化法の認定を受けた場合、贈与税や相続税の納税が猶予される制度です。事業承継に際して積極的に活用すべき制度といえるでしょう。
助成金制度
事業承継を支援する助成金制度も用意されています。中小企業の人材確保・育成や設備投資、経営革新などに対する支援策があります。事業承継に伴う経費の一部を助成金で賄うことで、企業の負担を軽減することができます。
国や自治体が実施している各種の助成金制度について情報収集し、要件を確認の上、積極的に活用することをおすすめします。
事業承継の具体的なステップ
事業承継は長期的な取り組みが必要とされます。創業者やオーナー経営者は、早期から準備を進めることが肝心です。事業承継の具体的なステップを確認しておきましょう。
Step1: 経営方針の確認
まずは会社の経営方針を確認し、事業継続を行うのか、事業売却を検討するのかを決める必要があります。事業継続を選択した場合は、親族内承継、社内承継、M&Aのいずれかの方法を検討します。
事業売却を選択した場合でも、買収先企業を見つけるまでの間、事業を継続する必要があります。いずれの場合も、中長期的な経営計画の策定が求められます。
Step2: 現状の把握と課題の抽出
次に、会社の現状について徹底的に把握し、事業承継における課題を洗い出す作業を行います。自社株式の評価額、資産状況、従業員の実態、ノウハウの継承状況などを調査します。
この段階で、承継資金の確保や後継者の選定、従業員の定着化、ノウハウの継承など、さまざまな課題が見えてくるはずです。それぞれの課題に対する具体的な対策を検討していく必要があります。
Step3: 事業承継計画の策定
事業承継計画は、後継者の選定方法、承継資金の準備、事業の移転プロセス、従業員の雇用継続策、知的資産の承継方法など、具体的な内容を盛り込む必要があります。
この計画を策定する際は、専門家の助言を仰ぐことをおすすめします。税理士や中小企業診断士など、さまざまな分野の専門家の協力を得ながら、実現可能な計画を立てることが重要です。
Step4: 承継資金の確保
自社株式の承継や事業用資産の移転には、多額の資金が必要となります。そのため、事業承継税制や生命保険の活用、金融機関からの資金調達など、様々な方法を組み合わせて承継資金を確保する必要があります。
承継資金の確保が滞ると事業承継そのものが難しくなるため、早期からの対策が不可欠です。専門家のアドバイスを参考に、確実な資金確保を図りましょう。
Step5: 事業承継の実行
事業承継計画に沿って、自社株式の移転や事業用資産の承継、後継者への経営権移譲、従業員への説明など、具体的な手続きを進めていきます。専門家とも連携しながら、スムーズな承継に向けて取り組む必要があります。
この段階では、従業員の不安を払拭し、モチベーションを維持することも大切です。丁寧なコミュニケーションを心がけ、従業員の理解と協力を得ることが重要となります。
まとめ
事業承継は、経営者にとって避けて通れない課題です。しかし、適切な準備と対策を講じることで、円滑な承継を実現し、企業の継続と発展につなげることができます。
本記事で解説したように、事業承継には「人」「資産」「知的資産」の3つの要素があり、それぞれに対する対策が必要不可欠です。また、親族内承継、社内承継、M&Aの3つの方法があり、自社の実情に合わせて選択する必要があります。
さらに、事業承継税制をはじめとする各種の支援制度を上手に活用することで、スムーズな承継を実現できます。専門家の助言を仰ぎながら、計画的に事業承継に取り組むことが肝心です。早期の準備を怠らず、着実に対策を進めていきましょう。